●鬼嫁です(1章「産みなさいと言われるとマジでムカつきます」)



 実家に帰ると、母から、それとなく出産をほのめかされることがある。これが、わりとマジでムカつく。「子どもを産みなさい」と命令されるわけではない。たとえば、「風疹のワクチンを受けてきなさい」なんてことを、遠回しに言ってくる。母に言われるまで知らなかったのだけど、どうやら子どもを身ごもってから風疹にかかると、お腹の子になんらかの影響があるらしい。なんらかの、がどういう状態を指すのかは未だに知らない。べつに必要な情報でもないので、面倒くさくてググりもしない。
 「キツく命令されるよりかまだマシじゃないか!」と思うひとがあるかもしれないが、どっこい、これが我が家に代々伝わる、束縛の手法なのだ。あくまで、産まれたときにサポートしてあげますからね、という姿勢。これまでに何度も「産みたくない」と意思表示をしたにもかかわらず、それを無視して、謎の親切を押しつけてくる。わたしは過去に、何度も、はっきりと言ったのだ。産まない、と。その度に母親は、「一人くらい産むでしょ」という、モノローグを返してきた。百歩譲って、人間の命を《くらい》で数えるなよというツッコミは置いておくとして、そもそもこちらと対話しようという姿勢が見られない。わたしがまるで《未熟》であるかのように、いつか時期が来たら産むものだと信じて疑わない様子だ。このままマジで子どもが産まれなかったら、どうするつもりなのか。そもそも、ピルを飲んでいるので風疹のワクチンを受けようが受けまいが、子どもはできないんだけどね。
 わたしはこの文章を書いている時点で、満二十五歳だ。世間一般でいうところの、産めなくて焦るというような年齢には達していない。だからこそ、内にどんな意志を持っていようと《いつか産む可能性のある人間》として扱われてしまう面倒くささがある。それはもう、出産適齢期を過ぎて、「ああ、このひとはもう産まないだろうな」と周囲が察するまで、こうやって扱われ続けるのだろう。
 産むも産まないも周りに意思表示をしないで、のらりくらりとやっていけばいいじゃない、と夫は言う。いい歳になっても黙って産まないでいたら、「もしかして、あの二人は不妊に悩んでいるのでは? そっとしておかないと……」なんて無駄な気遣いを、頼んでもいないのにしてもらえるようになるかもしれない。
 それが一番楽じゃないか。わかっている。わかっているが、わたしは自分の主張を押し通さずにいられない。この件に関しては、どうしても泣き寝入りしたくない。あくまで《わたしの意志で》産まないのだということを、どうにかして周囲にわからせてやる。


他タイトル一覧
■産みなさいと言われるとマジでムカつきます
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