●正夢





 無機質な建物は、もと来た路を消し去ってゆく。
 とにかく降らなければ。
 惑う足取りが階段を探す。
 だれともすれ違うことはない。

 吹き抜けになった空間で、螺旋階段へと差しかかり、
 六角形のホールは天上から床まで、ガラスが一面を覆う。
 ここで切断された建物の、外は砂浜だ。
 白い砂、にび色の海、そして月が。
 月はあかり。
 眠りのなかで波音は聞こえている。

 振り向かずともひとの気配がない。
 ヒールが階段を打ち、にじみながら広がってゆく。

 蝋燭が投げかけた、
 ミルク色の陰をつくる光源へ近づくにつれ、経を唱える声が聞こえた。
 ドレスのすそを持ち、まだ降ろう。
 砂浜が近い。
 そして月が。
 ほそく雲は消え、晴れ間から月がのぞく。
 階下へついたら、さざなみにかき消されそうなほどに小さい、
 年老いた僧侶の読経に吸い寄せられ、その曲がった背を見つめている。